現代能楽集『奇ッ怪 其ノ弐』観劇

31日に、世田谷パブリックシアターにて、『奇ッ怪 其ノ弐』を観劇。

半休だったのに何故か夕方まで仕事をしてしまい出かける支度はばたばた、その上乗り換え電車に乗り遅れたと散々だったが、なんとか開演直前に劇場へ滑りこめた(初めて劇場のお姉さんに案内してもらった)。


席は前から3列目のセンターブロックで良席。舞台が高いからか、今回は前列には厚めのクッションが置いてあったので見にくいこともなく、快適。おかげでお尻が痛くならなかった。


舞台は、奥行きのあるシンプルなセット。ただ近すぎるからかあんまり奥行きは感じない。どうやら所々に穴が開いていたよう。


私が席に着くとすでに奥の方で、白いひとの顔型の仮面をかぶった人が、うごめいていた。始まったのかと思いきや、そうでもない?らしい。

一人現れて消える、しばらくすると下の穴から現れたり。


じっと舞台の動きを見ていたら、山内さんが登場し、舞台が始まった。


お話は、とある村に一人の若者が帰ってくるところから始まる。彼は村の神社の息子。その村は数年前に有毒ガス事件によりたくさんの村人が死に今だに人も住み着かない廃墟の状態。神主である彼の父親もその事件で亡くなった。そんな廃墟と化した神社に入ると一人の男(山田)が住み着いていた。そこへ、村の開発に携わる業者の橋本と地質学者の曽我の2人がやってくる。この神社を取り壊して温泉やらを作ろうと企んでいたが、そこへ神社の息子が戻ってきて・・・。

4人を中心に話は展開する、息子を突然亡くし、臓器移植を心ない医者に進められ、息子の臓器を探しまわるようになる母親のお話、祭りの最中、暴行を受けていた男性と目が会うが助けられずに、生霊がずっとついて回る男のお話、妻のうつ病、自殺、そして偽物の医者を名乗ってうつ病の女性にカウセリングし警察に捕まり自らも滝で自殺しようとしていた男のお話(山田が出会った男)が、廃墟となった神社での4人の会話と並行し進行(エピソードに出てこない役者さんも舞台上に残っている)。


最後のエピソードは、事件が起こる直前の神社での村人の会合の場面につながる。神主である息子の父親も登場する。


その間、4人の会話の場面に戻ると、ずっとお面をかぶった人が無言で4人のそばを行き来する。話しかけても全く反応せず奇妙な動きをする人々。


4人は、いつしかその人々が死んだことに気づいていない幽霊となった村人なのではないかと思い始める。


そして話が進むにつれ、開発を進めようとやってきた2人も幽霊であったこと、最後の神社でのお話では山田も幽霊であったこと、神社での村人の仕草が、仮面をかぶった人々の奇妙な動きに一致していたことを神社の息子は知る。



今回の舞台は、「死者の魂を鎮める」という能が根源に持つ“鎮魂”に焦点を当てているらしい。

死んでしまった人々、生き残った人々、魂を癒やし、鎮めること、それでも一生懸命生きていかなければならないこと、震災を目の当たりにした今の私たちにはとても人事ではない。なんだか最後は切ない思いが残った。


◆上演時間◆1時間40分(休憩なし)


監修 野村萬斎
作・演出 前川知大
出演 山田 仲村トオル
橋本 池田成志
曽我 小松和重
矢口 山内圭哉
火群 内田慈
森永 浜田信也
清水 岩本幸子
黒鉄 金子岳憲


重たい内容のお話だが、随所に笑いを織り込み見やすい舞台になっていたと思う。仲村トオルさんの劇場に響く声とパワーは圧巻だったし、池田さんと小松さんの掛け合いも楽しく拝見できた(池田さんの大丈夫!、大丈夫!に本気で小松さん笑っていた?)。最後まで引き込まれるように見入ってしまった。とても良い舞台だった。